会社員は副業でもしない限り所得税に関する手続きを自分でする必要はありませんが、1年の途中で転職した場合には自分で確定申告しなければならないケースが出てきます。
同じように住民税も転職する時期によっては自分で納付したり、給料から天引きしてもらうため会社に書類を提出したりしなければならない場合があるので注意が必要です。
転職に伴って確定申告や住民税の手続きが必要になるケースとそうでないケースについて、それぞれ個別に解説します。
目次
転職したら確定申告をする必要がある?
所得税に関する手続きを会社が代行してくれるサラリーマンの場合は、毎月の給料から税金が天引きされた源泉徴収の額を年末調整することで納税手続きが完了します。
1年の途中で転職した場合でも転職先の会社に源泉徴収義務者が移行しますので、普通は自分で確定申告する必要はありません。
転職に伴って、自分で確定申告をするケースの大半は払いすぎた税金を取り戻すのが主な目的で、転職によって不完全となった年末調整を補うために行われます。
年末時点で転職していれば確定申告は不要
転職しても会社に雇用されて給料をもらっている限りは給料から所得税が天引きされる点には変わりないため、確定申告は不要のように思われがちです。
実際には源泉徴収された税金はあくまでも概算された額に過ぎず、12等分された税額が多めに見積もられて税金を払いすぎているケースも少なくありません。
転職した時期が年をまたぐ形になった場合は年末の時点で前の会社をすでに退職していながら、まだ次の会社に入社していないケースも考えられます。
この場合は年末時点で一時的に無職の状態となるためどちらの会社でも年末調整が受けられず、自分で確定申告しない限りは税金の還付を受けられません。
このような人は通常なら会社に代行してもらう年末調整を確定申告として自分でする必要が出てきますので、退職時に会社から受け取る源泉徴収票をなくさないように保管しておくことが大切です。
年末の時点で転職を終えていて次の会社に入社していれば年末調整の手続きも新しい会社でやってもらえるため、基本的に自分で確定申告する必要はありません。
転職後に確定申告をした方がいいケース
転職に伴って確定申告の義務が生じるというわけではありませんが、以下のようなケースに該当する人は確定申告した方が何かとお得です。
転職先の会社で年末調整を受ける場合でも何らかの事情で前の会社の源泉徴収票を提出しなかった場合は、その分を自分で確定申告することで税金の還付を受けられる可能性が出てきます。
転職時期が11月頃に及び、転職先の会社で年末調整を受ける際に前の会社の源泉徴収票が間に合わないような事例などはよくある例です。
転職時には何かとゴタゴタしがちなため、源泉徴収票を受け取るのを忘れてしまうというケースも珍しくありません。
源泉徴収票を受け取っていないと気づいたら前の会社に連絡し、転職先の会社で年末調整を受けるまでに発行してもらう必要があります。
転職先の会社で年末調整を受けられるのはあくまでも雇用契約を結んだ場合の話で、転職先の会社と業務委託契約を結んだ場合は源泉徴収されないため自分で確定申告する必要があります。
転職前の会社で退職金を受け取ったケース
転職に伴って確定申告の必要性が生じるもう1つのケースとして、前の会社から退職金を受け取った事例が挙げられます。
普通は住民税と合わせて所得税も源泉徴収された上で退職金を受け取るのが一般的とは言え、その計算方法は複雑です。
退職金の額に応じて税率と控除額が変動する仕組みとなっており、正確な納税額を計算してもらうには「退職所得の受給に関する申告書」を退職する会社に提出することが欠かせません。
退職金を受け取った際にこの「退職所得の受給に関する申告書」を提出していなかった場合は、一律の税率で退職金から所得税が源泉徴収されてしまいます。
そのようなケースでは確定申告を行うことで給与の年末調整と同様に税金が戻ってくる可能性があり、退職金の額が多いほど還付金額も多くなるという点は見逃せません。
外資系企業を退職したような場合では退職金から源泉徴収されていない例も少なくありませんので、そのような人も確定申告が必要になってきます。
転職した際の住民税の手続きはどうなる?
会社員が毎月の給料から源泉徴収されている税金は所得税だけでなく、1月1日時点で居住していた自治体に支払う住民税も含まれます。
年末時点で転職先の会社に入社していて確定申告の必要がないという人でも、転職した時期によっては住民税の手続きを自分でしなければならないケースが出てきます。
前年の所得額に対して課税される住民税の手続きは所得税とは違ったルールがあるだけに、転職に伴って手続きをしなければならない人が増えてくる点には注意が必要です。
5月までの転職なら住民税の手続きは不要
住民税も所得税と同じく通常は会社が納税手続きを代行し、毎月の給料から天引きされる形で源泉徴収されています。
所得税はあらかじめ概算した1年分の納税額を12等分して源泉徴収するため、12月に正確な納税額を算出した上での年末調整が欠かせません。
前年の所得に応じて課税される住民税は納税額がすでに確定しており、12等分した額を6月から翌年5月までの1年間にわたって会社が給料から天引きする特別徴収が一般的です。
そのため転職に伴って住民税の手続きをする必要があるかどうかという点も、転職した時期に左右されてきます。
5月までに前の会社を退職した場合は、5月分までの住民税残額が最終月の給与または退職金から一括で引かれるのが一般的です。
したがって1月から5月までに転職すれば、住民税を自分で納付したり手続きしたりする必要は基本的にないということになります。
5月までに前の会社を退職していても6月以降に転職先の会社に入社していない場合は、普通徴収で住民税を納付しなければなりません。
6月以降に転職した場合の住民税支払い方法
6月から12月までに転職した場合は後述する手続きをしない限り、6月以降分の住民税が特別徴収から普通徴収へと切り替えられます。
会社が住民税の納付を代行する特別徴収と異なり、普通徴収は個人事業主などと同様に自分で住民税を納付する方法です。
普通徴収は必ずしも1年分の住民税を一括で払わなければならないわけではなく、年4回に分けて支払うことも可能ですが、特別徴収のような月割にはできません。
6月から12月までの間で早い時期に転職した場合は住民税の残額も多くなるため、一括徴収だと負担が大きくなりがちです。
前の会社から退職金を支給された場合は、最終月の給料でなく退職金から住民税を一括徴収してもらうことで経済的負担を軽減できます。
年4回に分けて住民税を支払う形の普通徴収でも1回ごとに支払期限があって、1期は6月末日で2期は8月末日、3期が10月末日、4期が翌年1月末日です。
一括で支払っても4回に分けて支払っても、納税総額に変わりはありません。
転職後の会社に住民税の特別徴収を引き継いでもらう方法
6月以降に前の会社を退職した場合でも、転職先の会社への入社が1ヶ月以内なら新しい会社に住民税の特別徴収を引き継いでもらうことは可能です。
その場合は「転勤(転職)等による特別徴収届出書」という書類への記載が必要になってきます。
前の会社で「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」に必要事項を記載した上で、転職先の会社で「転勤(転職)等による特別徴収届出書」の必要事項を記入した上で自治体に提出するのがそのやり方です。
前の会社を退職してから転職先の会社に入社するまでに1ヶ月以上の間が空いてしまった場合は、住民税の特別徴収が引き継いでもらえません。
この場合は住民税の残額を前の会社に一括で天引きしてもらうか、普通徴収に切り替えて自分で納付する必要があります。
1ヶ月以内という早期の転職を実現させるのは収入を途絶えさせないというメリットだけでなく、住民税の納付で有利になるというメリットもあるのです。